我が家にはいろいろと変なプラモがある。
変なものが好き、という僕の趣向を理解してくれている友人が譲ってくれたり、模型屋さんで見つけて一目惚れしたり。
それをいつ作るのかは別問題で、とにかく、とりあえず在庫してしまう。
いやいや、プラモは作るもの。未完成のまま眺めるものじゃない。
と、たまには賢者タイムに入って埃のかぶった箱に挑んでみる。
そんな感じでいつかは作りたいと思っていたコイツを作った。
めずらしく「いつか」が来たもんだ。
“模型界の暴走列車”ことアリイの昭和の歳時記シリーズ・1/32 DIORAMA MODEL KIT『行水』(600円・税抜)。
このシリーズの説明文では
「いつも新しい驚きと、発見があった昭和30〜40年代(中略)そんな思い出の風景をジオラマで再現しました」とあり、
『行水』のキット説明では
「夏の強い日差しのさす午後は、ウラ庭での“行水”はほんとうに気持ちのいいものでした」と実に爽やか。
しかし、実際のキットの中身を見てみると、昭和の裏ビデオに出てきそうな美人ではないが陰のある女性が行水していて、「ほんとうに気持ちのいいものでした」が別の意味に思ってしまうし、女性の裸を覗く男まで付属していて「新しい驚きと発見」がこれまた違った意味なんじゃないかと深読みしてしまう。
さすが模型界の暴走列車。凄い。
また、キットの箱には「組み立てカンタンなイージーキット!」なんて書いてあるが、これも期待を裏切らない。
パーツのほとんどが合わず、普通に形にするだけでも中級以上の腕を必要とし、付属するジオラマ素材は木が一本。草だの砂利だのは自分で用意して勝手に作れという親切設計だ。
接着剤不要、塗装不要の色付きプラモが主流の今の時代ではクレームの嵐だろうな。
イージーの幅が実に広い、そんなところも昭和を感じさせるプラモだ。凄い。
しかし、シールは付属する。親切だ。
だがしかし。期待を裏切られることはない。
説明書には「シールは切ってのりや両面テープではります」とある。
つまり、シールという名のただの紙である…。凄い。
説明書もほのぼのとした雰囲気。
しかし、説明書でにこやかに描かれているこの男。役回りは「のぞき」である。凄い。
この小さな鶏、パーツ数が1匹4個。
しかもパーツは見事に合わない。組み立てて立たせるだけでもやっかいだ。
〝組み立てカンタンなイージーキット〟がいったいどこにあるのか、それを探す旅に出たい。本当に凄いなこのキット。
なんだかイロイロ文句ばっかり言ってしまったようだが、キットを組み立てていって物干し竿や子供たち、鶏や電信柱などジオラマの素材が揃ってくるとこれがなかなか楽しい眺め。
ほのぼのとした少年のフィギュアを塗っていると、いたずら心に火が点いてついつい十円ハゲを描いてしまったぞ。
うん、楽しいな、これは。ところで十円ハゲ、実際は見なかったよね。主に見たのは頭に傷を作って“貯金箱”とかバカにされるヤツだよね。
そんなこんなで、どんなこんなだか知らないけれど作ってみれば遊び心くすぐられる昭和の歳時記シリーズ。
もっと作ってみたい。もっと子供フィギュアを塗装してみたいと思った。
しかし、このキットはもともと河合商会というメーカーが作っていたようで、同社は2012年に倒産。
この昭和の歳時記シリーズも含めて河合商会の情景シリーズはアリイに引き継がれていたが、そのアリイも現在はプラモ製造からは撤退し子会社のマイクロエースが旧製品の再生産を続けているのみだそうだ。
プラモは金型さえあれば大量生産でき、キットは生き残る。
しかし、金型を保管している会社がいつまであるかはわからない。急いで集めなければと、『行水』以外のキットを調べてみた。
すると出てくるわ出てくるわ、『縁日』やら『赤ちょうちん』やら『紙芝居』やら気になるキットの数々が。シリーズで16ほどのキットがあるようだ。
しかし、である。しかし、なのである。
このシリーズ、よく見てみるとすべてのキットに子供が3人付属している。
すべてが着物姿の女の子と指差す男の子、そして指をしゃぶる男の子…。
ぜんぶ使い回しじゃねーか!
金型を使い回し、シリーズ内で3人の子供を大量生産した河合商会。売り上げ不振をカバーするための苦肉の策なのか、ただの無精なのか、謎は深まるばかりだが、そんなシリーズ、売られてもユーザーは集めないわなぁ。
倒産も納得せざるを得ない凄いシリーズなのであった。
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