Vol.2
初めて釣った謎の魚
それは嫌われ者の謎の魚
範を示してこそ親…
初めての釣りがほろ苦い思い出、いやむしろトラウマになりかねない結果となってしまった我が家の子供たち。初釣行の後、まったくと言っていいほど釣りのことは口にしなくなってしまった。しかし、このままでは終われない。道具一式揃えるのに1万円近くも投資して、その結果が地球を釣ったトラウマしかないなんて悲しすぎるじゃないか…。
とはいえ、また闇雲に釣りに出掛けても「釣りというのはとっても辛く悲しい」という印象を強めるだけのような気もするし…。まずは親である僕がちょっとでも釣れるようになってから子供たちに教えてやろう、ということで一人で港へ行ってみることにした。
釣り場は釣り初心者やファミリーに人気という小樽の色内埠頭。公園と一緒になった埠頭なのでトイレもあり、時期によって実にさまざまな魚が釣れる。ファミリー向けとはいえ、釣り方によっては玄人も満足できる小樽随一の良い釣り場だと僕は思っている。
昨年の7月某日。その色内埠頭へ一人寂しく釣りに出掛けた。狙う魚は…わからない! ここの海にはどんな魚がいるのかわからないから狙いもわからないのは当然で、餌も何を選んでいいのか、ここでもやっぱりわからない。餌売り場で腕組みしつつ、手にとったのはチューブタイプになったオキアミの練り餌。その理由は「これは手が汚れないらしい」というだけなのであった…。
仕掛けは前回の釣行ですべてダメになってしまったので、ここでも懲りずにもはや定番となった「サビキ釣りセット」を買ってみた。
ビギナーズラック…?
埠頭に着いて周囲を見渡すと平日のお昼にも関わらずそこそこ釣り人がいて、その中の最も人が良さそうなオジサンに挨拶してみた。
「いやぁ〜、夏枯れなのかね? かんばしくないねぇ」
魚が釣れなくて暇なのか、訊いてもいないことをどんどんしゃべるオジサン。どうやら定年退職後に何か趣味を持とうと釣りを始めてみたら、これが実に楽しいらしくほぼ毎日顔を出しているらしい。真夏は港にいると潮風が心地よく釣りには絶好の日和が多い。けれど水温が高くなりすぎた港には魚があまり入って来なくなるようでそれを「夏枯れ」というのだそうだ。それでもチカやカタクチイワシが寄ってくることもあるのでサビキ釣りに来ているのだという。
よしよし、サビキ釣りの仕掛けで問題ないのだな、とわかったところで隅っこのほうで準備を始めた。右も左もわからない僕には周囲の人がみんな玄人に見えたので、あまり邪魔にならないようにひっそりと釣りというものを勉強したかったのだ。
購入した「サビキセット」の説明書き通りに仕掛けをセットする。糸の結び方はいわゆる「漁師結び」。別名「完全結び」といわれる結び方でいかにも強そう。素人にもわりと簡単な結び方でかつ強力なので僕は今でも多用している。ネットで調べ、家で練習してきた漁師結びで仕掛けを作り、手が汚れない練り餌を餌カゴに注入。周囲の釣り人がやっているようにサビキ仕掛けを投げずに、岸壁から糸をポチャンと垂らすだけにしてみた。
糸を垂らしてみたけれど、いったいどれくらいの深さにすればいいのだろうか。リールを慣れない手つきで操作して糸の長さを調節していると、ものの数十秒で感じたことのない感覚が…。
プルンプルン……!
ん? もしかして釣れてる? もしかしてこれがビギナーズラックってやつなの!? わけもわからぬまま、リールを巻くと、なんだかわからない魚が釣れている! そして実によく暴れている! どうしていいかわからずにいるうちに魚は暴れまくってあっという間にサビキの針と糸をぐちゃぐちゃに絡めて使い物にならぬようにしてしまった。ここでも僕の用意したサビキセットは1セット。僕の一人での初釣行、これにて終了である。
しかし、今日はまだいい。魚が釣れている。なんだかよくわからない魚だけど、ネットで調べたら毒魚ではないらしいし、焼けば何でも食えるだろうと、帰宅してすぐに塩焼きにして食べてみた。
……んまいっ!!
今まで食べてきた焼き魚はいったいなんだったのかというほどの臭みのない上品な香りと深い味わい…。この小さな一尾を4人の子供たちにもちょっとずつ食べさせたが、みんな目を丸くして驚いていた。
今でも謎の魚です
7月某日。今度こそ、子供たちに魚を釣らせてやろうと色内埠頭へ。すると釣れるわ釣れるわ、僕と同じ魚が。僕も30㎝はありそうな大きなのも釣れて仕掛けはダメになってしまったし、家族分は釣れたのでその日も早めに引き上げて晩ご飯の食卓にみんなの釣果を並べた。一口食べて家族の笑顔が広がるはずであったが…。
……マズい! マズすぎる! おえぇぇぇ…。
前回食べた魚と同じ種類なのに、あれはなんだったのかというほどの強烈な生臭さと、汚泥まみれの川を連想させるようなドロッとした味わい…。
後に知ることになるのだが、僕らが初めて釣った魚はウグイ。産卵期に腹が赤くなるのでアカハラとも呼ばれる魚だ。釣り人の間でもこの魚の味の評価は分かれるようで、釣ったら美味しいから食べるという人もいれば、リリースもせずにその辺に打ち捨てる人も。サビキ仕掛けをダメにする魚としても嫌われている。
せっかく釣った魚なのだから打ち捨てるのはあんまりだと思った僕はその後もウグイをなんとかして食べようと試みた。わかったことは15㎝に満たないくらいの小さなウグイは塩焼きにすると実に美味しい。でも、外れを引くと吐くほどマズい。刺身にすると大きくても美味しく食べられるが小骨が多くて大変。しかし釣ってすぐ暴れる前に締めてしまえば、小骨は肉に刺さらず刺身をラクに美味しく頂ける、らしい。
いずれにせよ、食べるのはちょっと面倒なことが多いので、結局のところ僕はリリースするか、持ち帰って捌き、ウグイの切り身を餌にして今では他のおいしい魚を釣っている。これがまた良く釣れるし、経済的なのです。その辺のお話はまた今度。
(※小樽の色内埠頭は2018年6月現在、工事のため立ち入り禁止となっています)
(『北方ジャーナル2016年6月号』掲載)
※無断転載を禁じます。(C)Re Studio 2016年
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